うっかりするとため息をついてしまうあたしとは裏腹に、良一は礼儀正しくて表情豊かで、食べ物ひとつひとつに喜んでみせている。

「ざまん、おいしかです」

 大げさではないと思う。この魚の鮮度も、野菜の青くささも、島の食卓ならではのものだ。
 島の郷土料理は何かと訊かれても、ろくに思い付かない。素材をいじくり回す必要がないくらい新鮮な魚介類と野菜。毎日の食卓に上がるのは、いつもそういうメニューだ。

 郷土料理といえるのは、うどんの「地獄炊き」かな。
 お湯がぐらぐら沸騰する鍋の中に、固めにゆでたうどんを泳がせておく。独特の形をした杓子《しゃくし》で、うどんをすくって食べる。手元のお椀には、アゴだしと醤油を合わせた熱いつゆと、そこに割り入れた鶏卵、刻んだ細ネギ。

 地獄炊きはお手軽な料理だから、我が家の定番メニューだった。学校行事が忙しい時期の晩ごはんには、地獄炊き兼湯豆腐なんてのも多かった。
 夏の通知表シーズンは、冷やしうどんも定番だった。庭の畑のシソの葉を獲ってきて薬味にする。ついでにキュウリやトマトやピーマンも獲ってきて、洗って刻んで、二年生の国語の教科書に載っていた「りっちゃんのドレッシング」で和える。

 里穂さんが、また、あたしの顔をのぞき込んだ。
「結羽ちゃんのおかあさんからね、冷やしうどんとサラダ、ごちそうになったことがあるとよ。わたしたちが小学生のころ。校庭で遊びよったら、一緒にお昼ごはん食べようって誘ってくれて」

 そうそう、と夏井先生がうなずいた。
「カレーもごちそうになったよ。小学生の舌には辛すぎたけど」
 里穂さんが、ぐるっとあたしたちを見渡した。
「今夜はカレーでよか?」

 あたしは別に何でもいい。黙ってうなずいた。夏井先生は、何でもいいと口に出して、里穂さんに頭をはたかれた。何でもいいっていう答えがいちばんむかつくんだって。
 良一は模範解答をした。

「何かお手伝いしましょうか?」
「じゃあ、手伝ってもらおうかな? あ、良一くん、カロリーとか栄養とか、わたしはあんまり考えちょらんけど、大丈夫?」
「問題なかです。おれ、量も普通に食べるし、ビタミン類はサプリで補いよるけん、お菓子やジュースに注意するくらいで、特に神経質にならんでも大丈夫です」

 良一の体は商売道具なんだ。チラッと見上げたら、笑顔の口元にホワイトニングされた歯がのぞいていた。