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 久しぶりに届いた同級生からの手紙には、青すぎるほど青い空を背にして建つ、なつかしい小学校の写真が同封されていた。
 手紙は便箋一枚ぶんだった。見覚えのある柔らかい筆跡が、まもなくその日が訪れることを、ひりひりと告げていた。

〈八月一日に真節《まぶし》小学校の校舎の取り壊しが始まります。その日の午前中で、もう校庭にも入れなくなります。だから、工事が始まる前にお別れ会をしようと、島の大人たちと相談して決めました。結羽《ゆう》も来てよ。みんなでサヨナラしよう〉

 真節小学校が閉校して、今年で四年。残されていた校舎もいつか取り壊される日が来るのだと、もちろん知ってはいたけれど。
 四年っていう時間は、長いようで、短いようで、まばたきひとつの間に気が遠くなる。

 あたしは、あの島を離れてからずっと、長い長い薄暗がりの悪夢から覚めることなく、もがいているみたいだ。でも、振り返ってみれば、ちゃんと色の付いた思い出なんて、ほとんどない。たった数日ぶんの記憶みたいな分量でしかなくて、ぺらぺらで。

 嫌い、嫌い、嫌い。自分が。毎日が。生きていることが。全部が嫌い、嫌い、嫌い。
 何もかもがイヤでたまらないっていう気持ちは、まるで呪いだ。ほんのちょっと感情を動かしてしまったら、そのとたん、嫌い嫌い嫌いっていう自分の声で、頭も心も埋め尽くされる。

 あたしは目を閉じて息をついて、唇を噛んで痛みを味わって、目を開けて写真を見つめた。青い空と、古ぼけた鉄筋コンクリートの校舎。
 あのキラキラしていた毎日のことを思う。二度と戻ってこない、あたしがいちばん幸せだったころ。胸がざわめく。校舎が取り壊されたら、もう本当に、過去が過去になってしまうんだなって。

 何言ってんだろう。過去は過去だよね。完全にサヨナラしちゃったほうが、きっといい。あたしは、過去のあたしを知っている人やものや場所、全部と、きれいさっぱりサヨナラしてしまいたい。

 あたしはスマホを起ち上げた。二年以上、放置していたメッセージに、短い返信を作る。
〈手紙ありがとう。行きます〉

 このメッセージアプリで誰かに連絡するのって、いつ以来だっけ。普段は、母からの連絡を一方的に受けるためだけの道具になっている。その連絡も、今から帰るとか、気を付けていってらっしゃいとか、何種類かのパターンだけ。