少し涼しくなって夏の疲れが一気に出たのか、風邪が流行り出したのか、救急の待合所は老若男女でいっぱいだった。それを横目にエレベーターホールに向かう。

「お前、何をやっているんだ?」

突然、天地さんの服の裾を握る私を彼はビックリ眼で見下ろした。

ちなみ、今日の天地さんは山伏スタイルではない。
ダメージ加工がお洒落なデニム地のスキニーパンツに白Tシャツというシンプルな出で立ちだが、腰に巻いたジーンジャケットとサマーニット帽がアクセントとなり、ファッション雑誌の表紙が飾れるほどイケていた。

そんな、いつも以上にイケメンな彼の魅力に負けくっ付いた――のではない。

「苦手なんですよ。休日の病院って」

ああ、と天地さんが意地悪い笑みを浮かべて頷く。

「人間が少ない分、霊の存在が目立つからな」

救急の待合所とは違い、非常灯のみの外来病棟は薄暗く静まり返っていた。

「でも……天地さんって蚊取り線香みたいな存在ですね」

彼の姿を見た途端、次々と霊たちが姿を消していく。

「蚊取り線香って、お前、案外古風なんだな」
「古風? 蚊取り線香は現代でも夏の必需品じゃないですか」

心外だと言わんばかりに反論する。

「あの匂いを嗅ぐと夏が来たなぁ、と思いませんか?」

でも、もうそろそろ蚊取り豚を仕舞わねば、と思っていると、「ミライちゃん、天地さん、こっちこっち」と私たちを呼ぶ声が聞こえた。

祖母との待ち合わせの場所はエレベーターホール横の喫茶コーナー。初めてこの病院を訪れたときにロミオっぽい男性の声を聞いたあの場所だ。