「世継病院の噂は知っているな?」
「ああ、〝謎の大富豪〟が創業者とかいうアレですか?」

そうだ、と天地さんは答え、前方に見えてきた病院らしくない豪華な建物に目をやる。

「その創業者が偽装零だという情報がある」
「えっ? じゃあ、世継病院も虚偽の静寂教団のものということですか?」
「ゼロが拘わっているとしたらそうなるだろうな」
「そんなぁ……」

病院という場所は人助けを行う所だ。胡散臭い宗教団体とは真逆にある、と思う私の考えは間違いなのだろうか?

「知っているか? 医療と宗教は昔から密接な関係にあることを」
「そういえば……ご祈祷もその一種でしたね?」

科学の発展に逆行するかのように、年齢を重ねた多くの現代人がスピリチュアルな苦痛――いわゆる死に対する恐怖を抱えているという。そういった人たちに、少しでも理想的な〝穏やかな死〟を迎えてもらえるようにと臨床宗教師と呼ばれる職業までできた、と以前ネットで読んだことがある。

「そういうことだ。だから、宗教法人が病院を所持しているのは当たり前にあることだ」

「だが――」と天地さんは苦い顔をする。

「本当に虚偽の静寂教団が病院を作ったとしたら、悪霊のみならず、お前が視えるという霊も集めているんじゃないか、という意見もちらほら出ている。病院には霊が集まりやすいからな」