「その根拠は?」

天地さんが訊ねる。

「壱吾ちゃんがツーリングで出掛けた場所です。噂の『森の中の幽霊堀』に行ったんです」

あっ、と天地さんと顔を見合わせる。

「すみません。その話、もう少し詳しくお聞かせ願えませんか?」

顔色の変わった天地さんが身を乗り出した。祖母は興味を持ってもらえたことが嬉しかったのだろう。さらに熱く語り始めた。

話の内容で、おおよそ私たちが行ったコースを彼も辿ったことが分かった。

「一緒に行った友人たち曰く、あんなところで転ぶなんて変だ、ということでした。聞けば、お堀の周りを何周か回っていたとき、急に転んだそうです。何も無いところでです。友人たちも驚いたそうです」

祖母の顔が僅かに曇る。

「一つ質問いいですか? もしかしたら壱吾君には霊感のようなモノがあったのでしょうか? じゃなきゃ、私に祈祷なんて頼まれないと思うのですが……」
「何でもお見通しということですね」

祖母の顔には笑みが浮かんでいるが、本心を悟られまいと取り繕っているのが容易に分かる微笑みだった。

「ええ、壱吾ちゃんにはそういうのが昔から有ったみたいです。でも、家族でそれを知っているのは翠花さんだけでした」

祖母の話では、八百壱の創業者は翠花さんの旦那さんだったらしい。当初は商店街の片隅で細々と商っていたようだ。その八百壱を現在のチェーン店まで大きくしたのは現社長である壱吾君の父親だという。