「こんな山の中だ。人が近付いたら目的有りと思われて然りだろう? だから、SNSを使って『森の中の幽霊堀』という噂を流した。当然、怪しげな写真付きで」

それには彼の従兄弟が属する部署や公安も協力したという。要するに公職にある人々が彼の尻馬に乗り、その噂を拡散させたということだ。

「ネットって怖いよな。ウイルスが広がる如くアッという間に噂は広がった。で、俺たちは仕事がやりやすくなったというわけだ」

アハハと愉快そうに笑う天地さんを呆れ眼で見る。

「案外、正義のためなら手段を選ばないんですね? ちょっと知りたくなかった事実です」
「まぁな。目には目を歯には歯をだ。世の中の正義は真っ白じゃないってことだ」

大人になるということはこういうことだろう。知らなくてもいいことまで知ってしまう。

「だが、それはそれ、仕事と割り切ることが必要だ。心まで汚すことはない」

私の気持ちが分かったのだろうか? 天地さんの言葉がちょっぴり傷付いた心に柔らかく浸透していく。

「今日はここまでだ」

天地さんは堀を一周すると来た道に戻った。


 *


「ミライちゃん、最近よく出掛けるけど、あの殿方は誰?」
「婆様……」

好奇心いっぱいの瞳が私をジッと見つめる。
きたぁぁぁ! ヘラヘラと笑ったところで誤魔化しようがない――と言って祖母にはウイルス並のデマだって通じない。