『参りましょう!』

祖母はすぐさま手を洗い、割烹着(かっぽうぎ)を脱ぎ捨てると、私の手を引き先頭だって台所を出た。

普段はのほほんとしている祖母だが、肝心なところで芯のある(りん)とした女性になる。まさに、大和撫子そのもののような人だ。

そして――舞い戻った座敷で青柳医師の口から先の言葉が告げられた。

『でっ……でも、角膜だけではなく、爆発によって視神経にも損傷があると……それ故、視力の回復は絶望的だと……』

思いがけない発言に、流石の祖母の声も震えていた。
私だって当然驚いた。でも、何を言っていいのか言葉が出なかった。

『お話を伺っただけでは詳しいご説明はできませんが、このようなケースの患者を私はアメリカで何度も目にして治療してきました』

青柳医師は神経外科を専門とする外科医だった。

『眼科の医師と協力して、十中八九……いえ、百パーセント、ミライさんを完治させます』

そう力強く言われて、それまでお世話になっていた病院から青柳医師の勤める病院に変えたのは、それから間もなくのことだった。

驚いたことにその病院は財団法人世継(よつぎ)病院だった。

十二年前に設立された世継病院は、外場家から車で東に十五分ほど行ったところにある、それはもう豪華という言葉が似合う私立の総合病院だった。