「金之井のお嬢は霊感など持ち合わせていない。悪霊が取り憑いていることも知らない」
「じゃあ、金之井嬢は単に家出をしていると?」
「思っているだろうな。まさか教団に利用されているとはゆめゆめ思っていないだろう」

何てことだ。しかし、あの高飛車(たかびしゃ)なお嬢様を掌で転がすように操る輩って――どんな強者(つわもの)なのだろう?

「お前、どうして目がキラキラ輝いているんだ? 反応が可笑しいだろう」
「いえ、金之井嬢が屈伏(くっぷく)する人ってどんな人だろうと思いまして……」
「テヘヘって、笑って誤魔化すな。緊張感が足りないぞ」

鬼の形相で注意を促す天地さんから普段のふざけた様子は見受けられない。もしかしたら、それほど怖い相手なのだろうか?

「俺はお前を守ると言ったが百パーセント守り切れない。だから、残りの数パーセントは自分で自分を守ってもらわなければならない。油断するな!」

確かに天地さんの言うとおりだ。おんぶに抱っこの状態では共倒れになる場合もある。グッと気持ちを引き締め「すみません」と(こうべ)を垂れるが、天地さんから返事はなかった。

その後、車は高速を下りるとさらに樹海方面へと向かって行った。

「――ここって、もう樹海の中ですか?」

しばらく黙って車窓を眺めていたが、木々に囲まれた薄暗い森のような場所に入ったので我慢し切れなくなり訊ねると、「違う」と短い答えが返ってきた。そう言われれば道が舗装されている。