「平成の大惨事、地下鉄サリン事件を知っているか?」
勿論(もちろん)!」

この件を含めて一連の事件に関する著書は多く出版されている。

「初期捜査では批判された部分もあったが、公安は水面下であの宗教団体――いや、カルト団体をいち早くマークしていた」
「ということは、従兄弟さんって公安の方?」
「いや、公安では無い。だが、協力関係にある部署にいる」

そして、驚くことに天地さんはその部署の協力者だそうだ。

「だったら情報漏洩でも何でもないじゃないですか。どうしてそう言ってくれなかったんです?」

私の逆ギレのような言葉に、天地さんはフンと鼻を鳴らして、「こんなことペラペラ言う方が情報漏洩だろうが」と当然のことのように言った。

「確かに、正論です。案外、天地さんって良識人だったんですね」
「案外とはなんだ! 正真正銘立派な常識人だ!」

自分で言うところが胡散臭いが、一応頷いておく。

「で、それ言っちゃっていいんですか?」
「ああ、ようやく助手という形でメンバー登録できたからな」
「はぁ? メンバーって、私も警察のお手伝いをするんですか?」
「当たり前だろう? 俺の助手をする以上はそこも含まれる」

少し借金が増えただけなのに……仕事内容がガラリと変わってしまった。

「――全て聞かなかったことに……」
「できない相談だ」
「というより、メンバー登録が済んでいるっていうことは――」
「なかなか勘が良くなったな。そうだ。俺とバディを組んだ時点でそうなる運命だった」

(はか)られた、と思ったが後の祭りだ。脱力しそうになる身体に(むち)を打ち、横目で天地さんを睨み付ける。