霊は大勢いるが、私に話し掛けたり、頼み事をしたりするのは一箇所に一人か二人だった。これは天地さんと行動を共にするようになって分かったことだ。

「だからと言って、行く先々で頼み事をされる私の身にもなってよ!」

天地さんに言うと問答無用で祓ってしまうので黙っているが……それらの中には、ごくたまに家まで憑いてきてしまうものがいる――というのも、たいていの霊はその地を離れることができない。何故なら、その地に何らかの思い入れがある霊がほとんどだからだ。

〈ねぇ、泣いてちゃ分かんないよ。ミライに頼み事があるんだよね? どうして欲しいの?〉

今回は幼稚園児ぐらいの少年が憑いてきてしまった。シオの問いにも少年は首を横に振り、メソメソ泣くばかりだ。

ひと言も話さない少年の霊は、交通事故にでも遭ったように全身が血に汚れていた。幸いなのは顔にそれほど損傷を受けていないことだ。似顔絵でも描けば何処の誰か身元が割れるかもしれないと思った――が、生憎(あいにく)、私は絵が下手だった。

「お父さんとかお母さんとか、家族のこと覚えているかなぁ?」

仕方なく聞き込みを開始する。

〈――ママ……ママはどこ?〉

少年は今初めて自分が泣いている訳を知ったように、辺りを見回すとそう言って金切り声を上げ始めた。

霊の声域は広い。特に高音は頭痛を伴うほど高くなる。ビリビリと窓ガラスを震わす音に顔を(しか)めながら訊ねる。

「ママも一緒だったの?」

少年は口を(つぐ)みコクコクと何度も頷いた。