「娘の所属事務所が彼をスカウトしていたそうだ。男と知りながらな」
「もしかしたら、金之井嬢はそれで?」
「ああ、あの娘、そこの看板モデルだったな? 地位が脅かされると思ったんじゃないか?」

あの写真でも分かる。それは有り得る――彼女の不安を知り、犯人は浅井青年に脅迫めいたメモを送った。それならあの内容の意味が分かる。

「年季の入ったストーカーだ。写真の主が男性だとすぐに突き止めたんだろうな。で、男に我が女神が負けるなんて許せなかったんだろう」
「――彼はモデルなんて全然興味なかったのに……」

『国家公務員になりたい』彼の夢はそんな(つつ)ましやかな夢だったのに……。

「おい、泣くな! 俺が泣かしているみたいだろ」

天地さんが慌ててポケットからハンカチを取り出した。これまた意外だったが、アイロンの掛かった綺麗なハンカチだった。

しかし、ここでそれを借りるとまた幾ら請求されるか分からない。だから、丁重(ていちょう)に断り、リュックの中から先日コンビニで貰ったお絞りを取り出すと、それで涙を拭いた。

「で、死んでも尚、金之井嬢に取り憑いているんですか?」
「そう。でも、元々あの娘、悪霊体質だったんだろうな」

そうだったかなぁ、とちょっと違和感を持つ。

「その悪霊をも取り込み益々ダークになっている」
「そんなのもう存分に祓っちゃって下さい!」

ドンと大きく足を踏み鳴らす。

「こら止めろ! 怒りは悪霊を呼び寄せる。ああ、今度会ったら祓ってやる」
「そんな悠長(ゆうちょう)なこと言ってていいんですか?」
「いいんじゃないの。とにかく、もう少し様子を見ていたい」

何のために? 何だかモヤモヤする物言(ものい)いだった。