「お前には今までどおり、霊の頼み事を聞いてもらう。俺は問答無用で祓ってしまうからな、霊が怖がって寄り付かない」

「それは羨ましい」と言った途端、「羨ましいものか!」と怒鳴られた。

「訊ねたいことがあっても訊ねられないんだぞ。それで幾度損をしたことか!」

ギリギリと歯ぎしりをする天地さんを見遣り、相当な損出を受けたのだなと呆れながらも、あっ、と悟る。

「もしかしたら、祓えるだけで霊の頼み事などを聞く力が無いんですか?」
「馬鹿にするな。聞く力はある。ただ……送る力が無いんだ」

そう言って、天地さんは踊り場にある大きな窓を指差した。
四角い窓枠の向こうに青い空が見える。

今日も良いお天気だ。お天気お姉さんの言うとおり、残暑は厳しいけど、もう秋の空だ。そう言えば、『今年は秋刀魚が不漁で、高級魚の仲間入りをしそうだ』と、お姉さんがぼやいていたっけ――と思っていると、コツンと頭を叩かれた。

「お前、人の話を聞け!」
「ちょっとぉ、暴力反対!」
小突(こづ)いただけだろ。大袈裟(おおげさ)に言うな!」
「ちゃんと聞いていました。天地さんは霊をあの世に送れないんですよね」

仕返しとばかりに嫌味を込めて言ってやる。だが、彼には嫌味も通じないようだ。

「ああ、そうだ。送る前に祓ってしまうからな。俺の場合、祓う=消滅させる……だ。それだけ霊力が強いということだ」