大きく開いた口がそのままの状態で固まってしまった。

「間抜け面を引っ込めて早く着替えろ!」

病院からできるだけ早く来るように言われたらしい。慌てて上体を起こすと、唐突に祖母ののんびりした声が聞こえた。

「その前にお風呂に入ってらっしゃい。手術をしたら何日か入れないでしょう?」

続けて、「一石(いっせき)さん、できるだけ早くと言っても夜明け前から行くことないわ」と、至極もっともらしい意見を述べた。

「本当は朝食をご馳走でいっぱいにしてお祝いしたかったんだけど、食事は抜いて来て下さいって言われちゃったの」

その声に少し悲哀の色が籠もっているのは、祖母のモットーが『朝昼晩、ちゃんと食事を取ること!』だからだろう。

「あっ、うん……じゃあ、いってきます」

祖母には誰も逆らえない。

「お湯を張っておいたから、ちゃんと肩まで浸かるのよ」
「居眠りするんじゃないぞ」

子供の頃から言われ続けている台詞を背中に聞きながら、フワフワした足取りで自室を出た。


 *


『角膜の移植手術をすれば見えるようになります』

そう断言したのは、半年ほど前に担当医となった青柳(あおやぎ)医師だ。
彼は爆発事故後、かなり経ってから忌中(きちゅう)見舞いと称して外場の家にやってきた。