〈――お前だ……お前が……〉

えっ? 人々のざわめきに加え、購買力を煽るためか店内放送がガンガン聞こえる。そんな喧騒(けんそう)の中でも、その凍えるような声ははっきり聞こえた。

〈お前が邪魔をしなければ、あいつを地獄に道連れにできたのに……口惜しい……悔しい……お前が憎い〉

人混みに揉みくちゃになりながらも、金縛りに遭ったように身体が動かない。人の波と共に右へ左へと身体が大きく揺れる。そのたびに周りから『邪魔だ』『どけよ』などと罵声(ばせい)が飛んでくる。

「痛っ」

胸元辺りに突然激しい痛みが走る。途端に息ができなくなり、脂汗が出てきた。

「おい! お前、何やってるんだ?」

意識が遠退き始めた時、聞き覚えのある声と共に腕を引かれ、温かな壁に包まれる。

「とにかくここから出るぞ」
「山伏……の天地蒼穹?」
「お前何様だ? 呼び捨てとは良い度胸だな」

悪態を吐きながらも、彼は私を抱えるようにしてどんどん人混みを抜けていく。そして、人気の少ない非常階段の踊り場に来た途端、「お前は何をしているんだ!」と思いっ切り怒鳴られた。

「すみません……お叱りは後で存分にお聞きします……でも、その前に何か飲ませて……」

崩れるようにベンチに腰を下ろし、斜め右前にある自販機を見る。

「できれば……そのレモン入りの水をお願いします」

天地さんは無言で言った通りの物を買ってくれた。