「知らないの?」

呟きが聞こえたのだろう。隣に立つ狐眼のご婦人がニッコリ笑って親切に教えてくれた。

「本日限りの個数限定。人間ってそんな限定商品に弱いのよ。今回の商品もアッという間にネットで広がり、大評判。今やプレミアムな商品の仲間入りなの。だから、転売目的で買いに来ているブローカーが大勢いるのよ」

なるほど、と辺りに目を走らせる。そう言われればそんな雰囲気の人たちが大勢いる。しかし、そう説明するご婦人もなにやらそんな匂いがする。

〈本当に欲しい、と純粋な気持ちで買いに来ている人には迷惑な話だね〉

シオがスリスリと私の足に頬ずりする。どうやら頑張れと応援してくれているようだ。

彼の言うとおりだ。祖母のためにもそんな輩には負けられない、と思っているとカウントダウンが始まった。

だが、『ゼロ!』の声で、黒山の人だかりが二メートル四方程のワゴンめがけて一斉に走り出した途端、後悔した。

〈ミライ、大丈夫?〉

シオの心配そうな声が聞こえたが、返事もできないままに押し合いへし合いの渦に巻き込まれる――(あなど)っていた。

事故後、聴覚と臭覚、それに第六感が鋭くなったからか、人混みが苦手となり避けるようになった。だから、バーゲンなど一度も行ったことがない。テレビのニュースなどでその混雑ぶりは知っていたが、あの情景と一緒だった。

事前に知っていたら、祖母には悪いが入浴剤は諦めてもらっていただろう。