「どうしたんですか?」コンビニから血相を変えた店員が二人飛び出してきた。私の叫び声を聞いたからだろう。

「その人、痴漢か何かですか?」

手にあるスマートフォンで今にも通報しそうだ。

「あっ、いえ、違うんです。この人、私の叔父なんですけど……怖い話が得意で」

しどろもどろ説明する私と山伏を見遣り、店員たちは皆まで聞かずとも分かった、というように頷いた。

「ああ、怖話(こわばな)の語り()さんですね?」

山伏スタイルが功を奏したようで、すんなりその線で納得してくれたようだ。
「夏は儲かるでしょう?」などと砕けた調子で山伏に話し掛けている。

「ええ、夏期は稼ぎ時ですが、受容は年中あります」

てっきり怒り出すか無愛想になるかと思っていた山伏だが、話に会わせて愛想良く対応している。

「実は私、僧侶でもありますが本業は大学の助教授でして、心霊考古学者としての活動が主なんです」

だが、それだけではなかった。

「ってことは大学の先生なんだ」

山伏がニッコリ微笑むたびに店員の態度がどんどん軟化していく。そして、とうとう――あれは尊敬の眼差しだ。店員たちを魅了してしまった。

もしかしたら、人タラシ? 彼の微笑みには蠱惑(こわく)の毒が仕込まれているのだろうか?
そんなことを考え、ぼんやり成り行きを見守っていると、ポンと肩に手を置かれた。