「貴方が現われるとどっか行っちゃうんですよ」

少し非難がましく言うと、「祓われると思って怖いからだろ」と言い返される。

「言っておくが、動物霊は人の霊より質が悪い。本能のみで悪さをするからな」
「そうなんですか? シオは言葉を(しゃべ)るかなり理知的な霊ですけど」

一応、命の恩犬(おんけん)だ。何も知らない山伏ごときに、シオを嘲罵(ちょうば)めいた言葉で(はずかし)められたくなかった。

「ふーん、見た目より徳のある年季の入った動物霊ということか……」
「――反論しないんですか?」

意外だった。彼なら速攻で言い返すと思った。

「どうして反論しなきゃいけないんだ? お前が嘘を吐くとは思えないし、そういう動物霊がいるのは承知している。ただ、今までそんな奴に会ったことがなかっただけだ」

「へー、お初なんですか?」

それも意外だったが、もしかしたら、話す前に祓ってしまっていたのかもしれない。

「ああ、だから益々お前が欲しい」

ヘッ、と間抜け面になる。そんな(なま)めかしい言葉を男性から貰ったのは初めてだったからだ。

「お前……何を真っ赤になってるんだ? あっ、何か変なことを想像しただろう? この前といい、欲求不満か?」

「うわぁぁぁぁ」声を限りに叫ぶ。

「変態! 言うな、言うな、言うな! それ以上言ったら……」