「スプーンは無いのか?」

貰いませんでしたと言うと、二つ貰って来いと言う。二つでいいのかと思いつつも、「さっさとしろ」と言われて指示に従った。

スプーンを手にコンビニを出ると、山伏は店の前に置かれたキャンピングテーブルに太々(ふてぶて)しい(さま)で座っていた。頭上にはハイビスカス柄のビーチパラソル。それが妙に似合っていたので眉が八の字になる。

「何やっているんだ、溶ける」と言われて慌ててスプーンを渡すと、一つ返してきた。そして、「お前も座れ」と命令する。

どうやら、私もここでアイスを食べろと言っているようだ。

「お誘いは嬉しいですが、祖母が葱を待っているので……」
「お前は恩を(あだ)で返す気か?」

そう言えば、と幾つかある祖父の教えの一つを思い出す。
『恩は三倍返しすること!』これは祖父の信念だそうだ。しかたなく山伏の前に腰を下ろした。

「食べるぞ。話はそれからだ」

カップの(ふた)を開けながら山伏が言う。それに(なら)い私も蓋を取るが、半解凍されたアイスにガクリと肩が落ちる。山伏も同様みたいだ。

「やはりアイスはカチカチに凍ったのをスプーンで必死にほじるのが良いな」

そう言って彼はスプーンで掬うのを諦め、流し込むようにアイスクリームを口に入れていった。