祖父が、これここ、と新聞の小さな記事を指差した。手を伸ばして新聞を受け取ると、そこを隅々まで読み、愕然(がくぜん)とする。あまりにも短絡的な犯人の動機にだ。

「好きな女が呟いた一言で殺人を犯すとは、世も末だな」
〈お祖父さんの言うとおりだよ。でも、ネットって怖いね〉

シオの耳が垂れる。ショックを受けているのは明らかだ。

記事によると『モデルのRさんがSNSで呟いた一言が動機だった』とあった。

あれ、ストーカーじゃなかったの? 詳細は記載されていなかったが、そんなことで――と、浅井青年が……遺された者たちが(あわ)れで涙が溢れた。

「ですけど、ミライちゃんみたいに他人のために泣ける子がいるうちは、まだまだこの世も捨てたもんじゃありませんよ」

祖母はそう言いながら自分の皿からウインナーを一本取ると、「ご褒美(ほうび)よ」と言って私の皿にそれを置いてくれた。

「これがご褒美? 小学生の時と一緒じゃない。ご褒美ならもっと実用的なものがいいなぁ」

涙を(ぬぐ)い、そう言いながらそれを口に入れ、「でも、ありがとう」と笑うと祖母も祖父も笑った。

「しかし、この加害者」

笑いの収まった食卓に、打って変わったような重々しい声が祖父の口から漏れ出た。

「罪を(つぐな)わずして自殺するとは最低な奴だ」
「獄中で首を吊ったんでしたね?」

祖母の問いに祖父が頷いた。

「警察の落ち度だと論議を生んでいるそうだ。死して(なお)、世間を騒がせるとは全く(もっ)てけしからん奴だ」


その時は、そのけしからん奴が、私の目の前に現われるとは(つゆ)とも思っていなかった。