横から覗き込んだ安乃さんがそっと写真を撫でる。
アルバムも見せてもらった。素顔の彼は可愛いかった。

「芸能界へのスカウトもあったのでは?」
「ああ、あったみたいだね。あの子は全く興味なしだったけどね」
「安乃さんの言うとおりです。長政の夢は国家公務員でしたから」

そんなお堅い職業を彼が夢見ていたとは……意外だった。

「母一人子一人だったもので、苦労させたんでしょうね。安定した生活が目標だったみたいです」

〈違うよ〉

浅井青年が以知子さんの言葉を否定する。

生者に対する霊の反応は安定していない。黙りを続けていると思ったら突然雄弁(ゆうべん)になったり、何が霊の琴線(きんせん)に触れたらスイッチが押されるのか、今(もっ)て私は理解できずにいる。

〈目標はマイホームを持つこと。堅実に働いて、小さくてもいいから、母ちゃんの夢見ていた白いお城、そんな家を建てて住まわせてあげたかたったんだ〉

でも、今回は少し分かった気がする。

「それはちょっと違います」

だから私は、浅井青年の呟きを少しアレンジして以知子さんに伝えた。

「あの子……そんなことを言っていたんですか?」

途端にその場が涙の雨に濡れる。

「長政らしいね。本当に心根の優しい子だ」