「あんた、医者から煙草と酒、禁止されてるだろ? けど、酒も煙草も止められない。こっそり飲んでるの知ってるんだからね。それと同じさ。禁断の味には逆らえないだよ」

禁断って……まぁ、ある意味、禁断の世界かもしれないけど……。彼の思いはそんな重々しいものじゃなかったと思う。

「――私、気付いていました」

白いハンカチで目元を押さえながら以知子さんが唐突に口を開いた。

「あの子が高校生の頃、一度あの子の後をつけたことがあるんです。それで見てしまったんです。あの子の女装した姿を……」

「私もこの人にそれ聞いて、知ってたんだよ。で、一度、見に行ったんだ」

浅井青年が言っていた集会のような所にだろう。

「目を疑ったけど、あん時の長政――本当に綺麗だった。輝いていた。だから思ったんだ。こういうことをするのが好きなんだなって。でも、誤解していたようだ」

「私もです。いつかあの子が息子ではなく娘になってしまうと思ったんです。それは親として、ちょっと嫌でした」

あぁぁ、だから、浅井青年に逞しくあれ、みたいなことを言っていたんだ。なるほど、と理解する。

「でも、今となっては、それでも良かった。息子だろうが娘だろうが、あの子が生きてさえいてくれたら……」

グスグスと鼻を鳴らす以知子さんにつられて、安乃さんもブーッとハンカチで鼻をかむ。