〈嘘っ、母ちゃん、もう知ってたの?〉

ガクリと崩れ落ちる彼を横目に見遣(みや)り、気の毒に思ったが話の先を進める。

「私はアメリカに行く前……彼に告白をしました。その時、彼がカミングアウトしてくれて……彼が女装好きだということを知りました。彼が言ったんです、『こんな俺を好きになっても、君が傷付くだけだよ』って――今思うと、男らしくて優しいフリ方だったなって思うんです」

「あの子、そんなことを……」

「だから、お母さん! 彼のこと誤解しないであげて下さい。彼は女装がただ好きなだけだったんです。心はちゃんと男の子でした。性別だって、女性になろうなんて全然思っていなかったんです。だから、彼は永遠に貴女の息子さんなんです」

あっ、と以知子さんの瞳が見開かれ、みるみるうちにそこに涙が溜まり、止めどなく溢れ落ちた。その背を安乃さんが撫でる。

「儂にはあんたの言う言葉の意味がよく分からない。女装は好きだが女子になろうとは思っていなかった。なら、どうして女装をするんだ?」

松さんが首を傾げる。

そんなこと私に訊かれても……と思うが、『男は男であれ、女は女であれ』と育ってきた世代の人には理解できないのかもしれない。

「何言ってるんだい。好きは好きだからだよ」

そう思ったのだが、安乃さんが松さんにピシャリと言い放った。