「ええ……貴女は?」と言いながら以知子さんがフラッとふらついた。浅井青年が支えようと手を伸ばすが、無情にもそれは空を切る。

「言わんこっちゃない」

安乃さんの動きは意外にも機敏(きびん)だった。以知子さんをサッと支え、自分の横に座らせたのだ。

「何か飲むかい? 冷たいお茶でも持ってこようか?」

そして、気遣(きづか)わしげに以知子さんにそう訊ねた。以知子さんは「ううん、いい。ありがとう」と落ち込んだ目を細め、頭を下げる。

「あの……私は水谷(みずたに)といいます。浅井君とは高校の同級生でした」

少し間が空いたが、以知子さんの質問に答える。

「そうだったの……あっ、そう言えば、長政が『言い逃げされた』って言ってた、その子?」

「はい。告白だけしてアメリカに行っちゃったんです。ついこの間一時帰国して……」

「まぁ、そうだったの。で、わざわざ来て下さったのね」

以知子さんの目からハラハラと涙が零れる。

「何か、儂、勘違いしてたみたいだな」

話を聞いていた松さんはバツが悪そうに頭を掻く。

「あんたはいつもそうだ。早とちりもいいとこだ」

安乃さんが松さんをキッと睨み、「謝りな」と(あご)で私を指す。

「嬢ちゃん、犯人扱いして、すまなんだ。これ、このとおり」
「あっ、そんな、頭を上げて下さい」

人生の大先輩に土下座(まが)いのことをさせたなんてこと、祖父に知れたら大目だ。