何を呑気なことを言っているのだと呆れていると、松さんが「あんた、別嬪(べっぴん)さんだねぇ……」と私を見つめながら言った。

突然何だと思っていると、続けて松さんはとんでもないことを言い出した。

「あんたが犯人かい?」
「はい? 犯人とは……?」

自分でもビックリするような()頓狂(とんきょう)な声が出た。
そんな私を松さんが睨み付けるように見つめている。

「ちょっと! 何言ってんだい」
「じゃが安乃さんよ、犯人は現場に戻ると言うだろうが?」
「刑事ドラマとかではそうは言ってるけど、この子が犯人?」
「竹さん、見た目だけでは分からないものよ」

松・竹・梅の三人が揃って私を見る。

「すみません。何を(おっしゃ)っているのかさっぱり分からないのですが……ご説明いただけませんか?」

おそらく、浅井青年がこんな状態になった原因。その原因を作った犯人が私だと松さんは言いたいのだろう。

白々(しらじら)しい!」

吐き捨てるように松さんが言ったとき、隣の襖が開いた。

以知子(いちこ)ちゃん、起きていいのかい?」

そこに立っていたのは喪服姿の華奢(きゃしゃ)な女性だった。おそらくこの人は――。

「浅井君のお母さんですか?」
〈そう、俺の母ちゃん〉

浅井青年は以知子さんの隣に立ち、自分よりも二十センチほど背の低い彼女を見下ろした。