〈こいつの言うとおりだ。あの写真をそのままにしたら母ちゃんが傷付く。きっと、その悪循環とやらの渦に呑まれてしまう。そんなことになれば悲劇だ!〉

浅井青年は天を仰いで〈ジーザス〉と涙目で呟いた。
なるほど、分かり易い喩えだ。そういうことか。

〈だから、ボクたちあの場から逃げたんだ。分かってくれた?〉
「霊の世も、いろいろ大変だね」
〈そういうこと〉

大袈裟(おおげさ)に溜息を吐いたシオに、浅井青年も同意するように大きく頷いた。


  *


〈ここだよ〉

浅井青年の自宅は、二戸一(にこいち)住宅と云われる造りの木造平屋の家だった。パッと見ただけでも分かるが、かなり年季の入った家だった。

「どうしてこんなことに……」
〈あっ、安乃(やすの)バアちゃんだ〉

戸口のところで白髪の老女がエプロンに顔を埋めて肩を震わせていた。

〈俺、バアちゃんにはすっげぇ世話になったんだ〉

浅井青年がソッと安乃さんに寄り添う。

「おや? あんたは……」

気配に気付いたのだろうか? 安乃さんがエプロンから顔を上げた。目も鼻も真っ赤だ。

「あっ、私、水谷といいます。浅井君とは高校の同級生でした。それで……あの……」

偽名だが実在の人物だ。浅井青年によると、彼女は高校二年の途中に家族とアメリカに移住したらしい。