〈そう。あの人は霊の間でも有名な悪徳霊能力者なんだ〉
〈有無も言わさず秒速で祓うんだぞ〉

浅井青年がブルッと震えたと同時にズルッズルッと肩がずり落ちる――痛そうだ。

「でも、それならちょうどいいじゃない、祓ってもらったら?」
〈怖いこと言うなよ。あいつの場合、問答無用なんだぞ〉

浅井青年が今度は、千切れかけている首をカクンカクンと横に振る。

「うん、分かった! あの人には絶対に頼まない。だから首を振るのはやめよう!」

〈絶対だぞ〉と言って彼が落ち着いたところで、「問答無用って?」と訊ねる。

〈だから、有無も言わさず! 聞く耳持たずなんだよ、あいつ。心残りを言う暇もないんだ〉

うんうん、とシオが深く頷く。

〈前にも説明したけど、心残りには質の〝良い〟のと〝悪い〟のがあるんだけど……〉

覚えているよね、と言うように、シオが私を見る。頷くと話を続ける。

〈質の悪い心残りは世の中を混乱させることが多いから、問答無用で消滅させても大事にはならないけど、〝良い〟の方は、無理やり消滅させられることによって悪循環を生む場合があるんだよ〉

だから、極力霊たちを彼に祓わせたくないのだとシオは言う。

「シオって子犬なのに、ちょいちょい御大みたいな発言するね?」
〈ボクって知識犬(ちしきけん)だもん。でも、若年寄(わかどしより)って良く言われる〉

エヘヘヘとシオが笑う。