この男……何なの? ドクドクと心臓の音が早まるのを感じ、ギュッと拳を握る。

「――ただの独り言です」

「ふーん」山伏は訝しげな視線で私を見つめていたが、「まぁいい」とあっさり追究を止めた。

「一円にもならないことを探っても、何の得にもならないからな」

そして、もう一度私の瞳を覗き込み、「まっ、縁があったらまた会えるだろう」と意味深な言葉を残して、ちょうど到着した特急電車に向かって歩き出した。

何なの……何なの……何なの!

山伏の姿が見えなくなると急に身体が震えだす。身の内まで見透かされたように感じたからだ。

あの人、私が霊を視ていることを知っている。確証はないがそう思った。
しかし、それは思い違いではなかった。

〈ふぁー、怖かった!〉
〈だよなぁ、殺されるかと思った〉

山伏が現われたと同時に姿を消していた一人と一匹は、次の電車に乗った途端、現われた。

「貴方たち、私を置いて逃げるなんていい度胸しているわね」

手の指をボキボキいわせ、キッと睨み付ける。

〈ごめんね。でも、しかたがなかったんだ〉
〈そうだそうだ! もうちょっとで殺されるところだったんだぞ〉
「意味が分からない。貴方たちは既にこの世のモノじゃないのよ」
〈殺されるって言葉が妥当じゃなかったら、消滅させられる、でどう?〉
「それって、祓われるってこと?」