何なんだこの山伏、と怪訝(けげん)に思いながら一歩後退する。

「大人ならご存じだと思いますが、人にはパーソナルスペースというものがあります。加えて言えば、人を指差す行為は相手に対して失礼に当たります」

やんわりと言いながらも、射るような視線で『離れろ! その手を下げろ!』と威嚇(いかく)する。

「おっと、これは失礼」

山伏は二歩後退して腕を下ろすとその手を胸に当てた。そして、映画に出てくる紳士のようなお辞儀をした。

西洋と東洋がごちゃ混ぜになったような姿だが、違和感は全くなかった。

そんな仕草が似合うと思ってしまうのは、山伏がイケメンと言われる部類の人だからだろう。

だが、彼はそれを眼鏡と突飛な格好で隠しているようだ。だからあの三人組は見逃したのだろう。知っていたら、たぶんこの場から離れなかったと思う。

「――君の瞳と……その黒子(ほくろ)に見覚えがあるんだが」
「黒子……? 新手のナンパか何かですか?」
「いや、君みたいな乳臭い高校生は好みじゃない」
「はぁ?」

容姿とクールな性格から、『大人っぽい』や『カッコイイ』とは言われたことがある。しかし、面と向かって『乳臭い』とか『好みじゃない』とか言われたのは初めてだ。

「貴方、本当に失礼な人ですね」
「好みの問題だ。大意はない。それより、君、誰と話をしていたんだ?」
「はい?」
「モデルのリョウを無視して違う方を向いて口を動かしていただろ?」