〈嫌な嗤い。この子、きっと付き纏ってくるよ〉

ずっと憑き纏っているシオには言われたくないが、私も何となく嫌な予感がした。

「ここ、空気が悪いわね」
「じゃあ、もっと前に行きましょう」
「そうね、それがいいわ」

どうやら三人は車両を変えるようだ。ツンと顎を上げると前方に向かって歩き出した。

「君、大丈夫?」
「はぁ、ありがとうございました」

礼を述べながら、彼女たちの背中を見送っていた視線を男性の方に向け、「えっ?」と首を傾げる。そして、おもむろにその目を下から上、上から下に移動させた。

だが、どう見ても野武士? いや、違う。山伏(やまぶし)だった。

実物を見るのは初めてだが、明らかにこれは金剛(こんごう)の杖を付き、ほら貝を吹き鳴らす、ドラマでよく見るあの修験道(しゅげんどう)の行者スタイルだった。

そんな人が何故ここに?

ドラマでは、僧の修行場は山野だった。街中でも修業をしていたのか。ほほう、と妙な納得をしていると、「君、電車に乗らなくていいの?」と訊ねる声が聞こえた。

電車……ハッと我に返ったが、時既に遅し。ドアは閉まった後だった。

気付いていたならどうしてもっと早く言ってくれなかったの、と恨めしげに山伏を見ながら訊ね返す。

「――貴方は乗らなくても良かったのですか?」
「大丈夫。それより君だ!」

そう言って山伏がいきなり私との距離を縮めた。