「ほら、カンパ」
〈うわぁ、ガラガラとイメージが崩れていく〉

傲慢な顔で右手を差し出す彼女を見遣り、浅井青年がポンと自分の後頭部を叩いた。その拍子に脳ミソが一部飛び出す。

――見なかったことにしよう。

フイッとそっぽを向いたのがお気に召さなかったのか、金之井嬢が怒り出す。

「ちょっと、貴女、私を馬鹿にしてるの!」

しかし、いくら彼女が(すご)んだとしても、毎日がホラーな私だ、怖くも何ともない。

「私、金欠なので出せません」

裕福なご令嬢に貧乏小娘が小銭を渡す意味が分からない。

「生意気!」
「ブスのくせして刃向かう気?」

今ここで容姿が関係あるのかと思っていると、〈俺とリョウよりは劣るけど、その二人よりはずっと可愛いよ〉と浅井青年が励ましてくれる。が、どうしても、彼に褒められても褒められた気がしない。

「そうだわ。その格好ならご香典を持っているでしょう?」

正解だが、取られてなるものかと、冠婚葬祭用に買ってもらった黒のフォーマルバックを抱き締める。

「大当たり。素直ね、バレバレよ」

彼女が腕を伸ばしかけた時、「何をしているんだ?」と、また生者の声が聞こえた。今度は男性の声だ。そこに電車の到着を知らせるベルが鳴り響く。

ビクンと金之井嬢が肩を震わせ手を引っ込めた。そして、「助かったわね」と囁き、鼻で笑った。