「へぇ、そう。けっこうメンクイなんだ」

そんな話をしている間に駅に着いた。

〈まあね。俺の顔を見れば分かると思うけど、父ちゃんはきっと物凄(ものすご)い美形だったと思う〉

デレンと垂れ下がった顔の皮膚が、笑った拍子にポトリと落ちる。
思わず目を瞑り、そんな顔で分かるか、と心の中で絶叫する。

「あと五分ほどで電車が来るわ」

彼の顔を見ないようにして、電光掲示板を見る。

駅前は夕方だからか行き交う人でいっぱいだったが、駅のホームには思ったほど人はいなかった。夏休みで学生がいないからかもしれない。

〈電車代とか香典とか、金を使わせて悪かったな〉

そんな中、浅井青年がいきなり殊勝(しゅしょう)なことを言い出した。

――成仏が近付いているからかも……。

「これも供養のうち。だから心置きなく早く逝ってね」

〈こんなこと言ってるけど、逝ったら逝ったで淋しがるんだよ。何だかんだ言ってもミライは優しいから〉

シオの言葉にちょっと照れたが、浅井青年の言うとおり、霊に応対すると一時的に懐が寂しくなる。だからさっきの言葉は本心だ。ブタの貯金箱が空になる前に逝って欲しい。

――とは言うものの、それは本当に一時的だった。その後、その額にちょっと上乗せされたお金が、何かの拍子に戻ってくる。応対者からではないが、私はそれを〝霊の恩返し〟と呼んでいる。