「そうね、やっぱりお家でお通夜の方にする」

ガクリと肩を落とすシオを無視して、青年に手帳の所在を詳しく聞く。


 *


「じゃあ、行ってきます」
「気を付けていってらっしゃい。くれぐれも失礼のないようにね」

祖母の見送りを受け、家を出る。

「暑っ……」

ひと頃に比べると日は随分短くなったが、六時を迎えようとしているのにまだ太陽は燦々と輝いている。天気予報によると残暑はまだまだ続くらしい。

〈上手い言い訳を考えたね〉
「祖母に嘘は通じないの。だから本当のことを言ったまでよ」

通夜に行くと正直に話したが、亡くなったのは病院でお世話になった架空の講師。微妙に嘘は含まれているが、通夜は通夜、行き先は本当だ。

「私だって嘘なんて吐きたくないのよ。でも、本当のことなんて話せるわけないじゃない。もし、霊が視えるなんて言ったら……」

また、心配をかけてしまう。

〈うん。嘘も方便。ミライの嘘は、お祖父さんやお祖母さんを思って吐く優しい嘘。間違ってないよ〉

慰めるようにシオが足元に纏わり付く。

「ちょっと、歩きにくいじゃない」
「ねぇ、あの子一人で何をやってるのかしら?」

OLっぽい二人連れが、チラチラこちらを見ながら行き過ぎる。