やめてぇぇぇ!
悲鳴を上げそうになるのをすんでのところで堪えた。

〈やっぱり、好きなものは好きなんだよなぁ。母ちゃんに隠れて時々女装して、その格好でイベントに行って。そんな中でも一番可愛いって言われて、楽しかったなぁ〉

青年の落ちかけた眼球がどこか遠くを見る。
もうやだ! さっさと心残りを解決して、速攻で成仏してもらおう!
固く心に誓っている私の横で、青年はマイペースに話し続ける。

〈写真とかいっぱい撮られてたけど、誰もそれが俺だとは思わないからへっちゃらだったんだけど……〉

彼は一枚だけ、男の娘姿の自分の写真を手帳に仕舞ってあるそうだ。

〈その写真、最高に綺麗で可愛かったんだ〉

――ナルシストかっ!

〈ナルシストじゃないよ〉

ツッコム前に否定された。

〈たぶん、人生で一番綺麗な表情を切り取ってくれたんだと思う。誰だったか忘れたけど……〉

「その写真を処分して欲しいということね?」
〈そう! だって、いくらなんでも母ちゃんを騙せる気、しないもん〉

確かに、見た目がどんなに変わろうと母親なら息子だと分かるはず。親とはそういうものだ。

〈あんなの見たら、母ちゃん、絶対にショック死する。俺、母ちゃんを殺したくない〉

なるほど、そういう訳だったのか――と納得はするものの、見ず知らずの私がそう簡単に彼の部屋に入れるわけもなく……。