私の下敷きになったと聞いたが、ペットショップにいるような、愛らしいコロコロとした白い子犬にしか視えない。だから我慢できる。

しかし、私の前に現われる霊は、たいてい死んだ直後の姿で現われる。

霊を見始めて四年。その間まともな人間に見えたのは、雪山で眠るように亡くなった女性登山家だけだった。後は……思い出したくもない。

そんなのがいきなり現われたり、付き纏ったりしてくるのだ。勘弁して下さい、と思うのも当然だろう。

現に目の前にいる青年だって……目を背けたくなる。
――うぅぅぅ、怖い!
そう思うのに、青年は実にフレンドリーに話し掛けてくる。

〈ねぇ、お願いします。このとおりです。助けて下さい。母ちゃんを助けると思って〉

薄目を開けると青年が私に向かって必死に手を合わせていた。

拝みたいのは私の方だ。でも、この青年も心に残した思いが晴れない限り、ずっと付き纏うに違いない。

それは嫌だ!

夜中にフト目覚め、目の前にゾンビのような顔なんて……考えたくもない。
フルフルと頭を振り、それに、と思う。

逝く人も気の毒だが、遺された人の気持ちを思うと居たたまれない。母親が気の毒になる。