〈ふーん、それで結局あの洞窟の件はどうなったの?〉
「それがね、公安は私が夢を見たんだろうって。でも、天地さんの部署は多方面から検討しているみたい。シオなら庭園を見つけられるんじゃない? 一緒に探しに行こうっか?」

〈ミライ……〉とシオの眼が三角になる。

〈一人で勝手なことをするな、って天地さんから言われただろう? それに、あの堀をボクが渡れないって知ってるでしょう〉

シオ曰く。強力な磁力らしきものが働き、それが結界の役目を果たしているみたいだ。

〈磁力ではなく超霊波かもしれないけど、ボクにはそれが何なのか分からない。分からないということは波長が合わないんだと思う。だからボクは弾かれる〉

そうなると近寄ることもできないそうだ。

〈ミライ……くれぐれも気を付けてね。ボクには君を守るっていう任務が与えられているんだから――〉


 *


そうだ、ボクは頼まれたんだ。
ミライはそれが天地さんからの頼みだと思っているようだけど、違う。

あの日――。
ねっとりとした暑さが肌に纏わり付くような夜。アーケード商店街の店先はどこのシャッターももう下りていた。その中を彼女はひたすら走った。逃れることなどできないと知っていたのに……。

ボクはどうすることもできずに、彼女を見守ることしかできなかった。

そして、命の灯火が消える瞬間、彼女はボクに言った。
『ありがとう……どうかあの子だけは……お願いね……』と。

あの時の掠れたような小さな声も、瞳から零れた一筋の雫も、命が途切れたその瞬間も、ボクは鮮明に覚えている。

だから、ミライ、ボクは君を守らなければいけないんだ。
塔子のためにも……。