〈ねぇ、そんなに邪険にしちゃ可哀想だよ〉
〈ほら、犬っころも言ってるじゃないか!〉
〈ボク、犬っころじゃないよ、シオだよ〉
〈白? 見たまんまじゃないか〉
〈シロ、じゃなくてシオ〉
〈しょっぱそうな名前だな〉
〈調味料の塩じゃなくて、フランス語で子犬っていう意味!〉

掛け合い漫才のようなこの手の会話は、シオと霊の間で良く交わされていて少々食傷気味だ。

〈カッコいい名前でしょう?〉

そう話すシオは、ワンワンとは言わずバリバリの日本語を喋っている。

そもそもの始まりは、この子犬の霊と出会ったことだ。
最初は、『有り得ない。目の錯覚だ、幻聴だ』と信じなかった。

いくら人より聴覚や第六感が優れているとしても、視えないものが見え、聞こえないものが聞こえる、なんてことは非日常もいいところだからだ。

しかし、そう思いつつも、もしかしたら視力を回復したと同時に、不思議の国とやらに迷い込んでしまったのではないだろうかと、(いささ)かいかれた考えも浮かんだりした。

それほどショッキングだったということだ。

そんな悩める私の気持ちを無視して、シオは、《あのね、ボクが下敷きになったお陰で君は助かったんだよ。だからボクは命の恩犬だよ》と、恩着せがましく当日の様子を教えてくれた。

《まぁ、多少ビックリするよね》

多少どころではない!