「脱線しているぞ」

そう言うと天地さんはパウンドケーキを口いっぱいに頬張り、モグモグ動かしながら「不可解なことの一つ目」と親指を立てた。

「お前も金之井のお嬢も見つかったのはバスの中だ。庭園なんかじゃない」

「はい……?」どういうこと?

「二つ目、バスが見つかったのはお前が言ったように切り立った崖の前だが、洞窟への入り口は無かった」
「――無かったって……(いびつ)な穴が空いていませんでしたか?」

「それがね」と因幡さんが気遣(きづか)わしげに説明する。

「それらしき跡は有ったの。でも、ずいぶん昔に落石があったみたい。大きな岩で(ふさ)がれていたの。(あり)は通れると思うけど、人は……子供でも無理だわ」
「――皆さんが来られる直前に塞がったのではなく?」

「ええ」と因幡さんが頷く。

「よって、お前の言った洞窟の通路も、庭園も、虚偽の静寂教団の建物も、見つけることはできなかった。おい、因幡の白兎、茶のお代わり」

天地さんの視線がカップに向く。

「それって……私が夢を見ていたということですか?」

あんなリアルな夢があるだろうか?

「狐に化かされちゃったのかしら?」

うーん、と唇を突き出し、顎に人差し指を当て、因幡さんが首を傾げる。

「かわい子ぶるな、気色悪い! 因幡の白兎、いつも思うが、お前って医者らしくない医者だよな」

「何処がよ?」と因幡さんはそっぽを向く。