「――というよりも、それも奴にとってはゲームの中の一コマ……だったのかもな。で、我々のことを嘲嗤(あざわら)っていた」

くそっ、と右の(こぶし)を左の(てのひら)に思い切りぶつけた。逮捕し損ねたのが相当悔しかったみたいだ。

「ほらほら落ち着いて。お茶のお代わりは?」

立ち上がった因幡さんは、「精神安定剤もいるかしら?」と呟き、キッチンに向かった。

怒りに火が付いてしまった天地さんは猛獣だ。あらん限りの罵詈雑言(ばりぞうげん)は吐くし、足を踏み鳴らしたりローテーブルを蹴飛ばしたりするし、手が付けられない。

それを伏せ目で見ながら――こちらに火の粉が飛んできませんようにと祈る。

「お待たせ」

だから、甘く爽やかな香りと共に現われた因幡さんが天女に見えた。

「カモミールにペパーミントをブレンドしたリラックス効果大のお茶よ」

(すが)り付くように見る私に、大丈夫よ、というように因幡さんは柔らかな笑み浮かべ頷いた。

「茶なんかで俺の気が治まるか!」

「そんなこと言わないの」と(なだ)めつつ、因幡さんは各々の前に新たなお茶を置いていく。

「お好みで、だけど、蜂蜜とミルクを入れると美味しさが増すわよ」

フンと鼻を鳴らしながらも、天地さんは蜂蜜とミルクをたっぷり加えて飲み始めた。

「そうそう、アップル&シナモンのパウンドケーキを作っておいたのよ」

キッチンにとって返し、大ぶりのデザート皿と共に戻って来ると、因幡さんはそれをテーブルの中央に置いた。

「良かったら、これもどうぞ」