「実はね、金之井さんも他の乗客も部分的な記憶が無いの。だから、どうしてあそこにいたのか分からずじまいなの……」

一向に進まない事情聴取に(ごう)を煮やした(うえ)が、私の証言を基に調書を作成しろと言ったらしい。

「あくまでも彼らの調書としてね」
「こんな風にな、霊が関与する事件には裏工作が必要になるんだ」

毎回その工作をしているのは天地さんらしいが、辻褄合わせが大変なのだそうだ。だが、今回は私の証言が使われた。凄く楽だったらしい。なるほど、と頷く。

「それ(ゆえ)の謝罪でしたか。だったら無用です」
「ありがとう。でね……」

言い淀んだ因幡さんが天地さんを見る。
チッと舌打ちをした天地さんが因幡さんの言葉を継ぎ、変なことを言い出した。

「お前の証言に不可解なところが数カ所あった。で、もう一度確認したい」
「今日の呼び出しはそのためですか……?」
「ああ、そうだ」

私を心配して、じゃなかったんだと思ったら少しムカついた。

「不可解とは?」
「証言に基づき、橋を渡ったバスに男女六人の乗客とミライ、お前が乗っていたのは確かだ」

証言者はあの若い警備員だという。

「あいつは身内だ」

夢の中で聞いたと思った〝Gワン〟というのも彼だった。潜入捜査で警備員に化けていたそうだ。

「へぇー」とその時の情景を思い出し、彼が私を見たのは私の存在を確認するためだったのだと悟る。

「でも……おかしな話ですね」

フト浮かんだ疑問を口にする。

「ゼロともあろう者が、それを見破れなかったんですか?」
「想定内だったんだろう」

天地さんはいとも簡単にそう答え、皮肉な嗤いを浮かべた。