「そうか、良かった! 借金を残したまま壊れちまったら大損だからな」

「蒼穹!」「天地さん!」怒気をはらんだ声が因幡さんとハモる。

「あんたの立てた計画のせいでミライちゃんがこんなことになったのよ!」

『俺は従兄弟の用事で少しの間留守をする』あの言葉は計画だったのだ。
相手は悪霊を宿した霊能力者。私たちの会話を盗み聞こうと思えば、容易(たやす)くできるのだと言う。

「敵を(あざむ)くにはまず味方から、って(ことわざ)があるだろう?」

要するに、因幡さんの言うように、私は囮だったということだ。

だからあの時もシェルターに入るまで会話を禁止したのか、と改めて因幡さん()のシェルター内を見回す。

「ミライが悪霊に狙われているのは、最初の出会いから分かっていた」

それもかなり凶悪な悪霊に、だそうだ。

「だったら、もっと早く教えて下さいよ」
「アホー、悪霊は悪霊だが、どんな奴なのか、どんな目的なのか、知る必要があるだろう?」

確かに言われてみればそうかもしれない。

「それを知らずして根本的な解決策ない」
「でも、その相手が我々が追っていたゼロだったなんて……」

因幡さんは様々な感情が入り乱れた複雑な溜息を一つ零した。

「ああ、あれには俺も驚いた。事実は小説よりも奇なりだったな」

ガハハと笑う天地さんを、因幡さんは長い足で蹴飛ばす。