〈青柳はどうして君なんかを選んだのでしょうね?〉

丁寧な物言いだがゼロとは違う、奈落(ならく)の底から発せられたような暗くて冷たい声。

(われ)の計画を(たが)わしたそもそもの原因がそれです〉

トーコさんの角膜が私に移植されたのがお気に召さないようだ。苛立たしげに鬼面は言葉を吐き捨てた。

〈だいたい君は勘が良すぎる〉

天地さんもそんなことを言っていた。

あれ? でも……確か私はワンチャンネルしか受信できなかったのでは、と首を傾げ、鬼面に目を遣る。

〈君はトーコを彷彿(ほうふつ)させます。我にとり危険因子に成り()る存在です〉
「だとしたら、私もトーコさんのように殺める?」
〈それもいいかもしれません。しかし、今の君を殺めるつもりはありません〉
「なぜ?」
〈面白くないからです〉

ユラユラと鬼面は揺れながらクフフと不気味に嗤う。

〈トーコを彷彿させると言いましたが、まだまだトーコの力には及びません。そんな君を容易(たやす)く亡き者にしてしまうのはつまらな過ぎます。故に、トーコの力を継ぐミライ、君の成長を楽しみに待つことにします〉

鬼面の眼が赤から金色に変化し、薄気味悪く光る。

「ど……どういう意味ですか?」

恐ろしい眼だ。声が上ずる。

〈それを今から説明することはできません。時間切れのようですから。忌々しいですが君の着けている腕時計が動き出してしまいました〉

腕時計? 天地さんに貰った時計に目を遣り、えっ、と目を見張る。