「いえ、お構いなく」

混乱する頭を整理したくて再び思考の森に入ろうとすると、ゼロが、「前世で地獄に落とされかけたのは僕の方でした」と、また突飛な話をし出した。

「理不尽だと思いませんか?」

いや、もし本当にトーコさんと神を殺めたのなら、地獄行きは当然のことでしょう。

心の中で彼の問いを全否定したが、「その前に逃げ出しましたがね」と、彼は私の答えなど欲していなかったように、あっけらかんとそんなことを言った。

〝良い霊〟と〝悪い霊〟の話で、《悪い霊は問答無用で祓える》と聞いた。ということは、祓われる前に逃げ出したということだろうか?

そこでハッとする。

「貴方……ゼロだけどゼロじゃないのでは?」

ずっと気になっていた鬼面。憑依(ひょうい)という言葉が妥当かは分からないが、オーバーラップして視えるのはそのせいかもしれないと思ったのだ。

パンパンパンと突然ゼロが拍手をし出した。

「やはりトーコの目を(もっ)てすれば、視えて当然でしたね」

なんてこともないように肯定するゼロ。要するに、私の憶測は間違っていないということだ。

「貴方は前世のゼロですね? そして、今世のトーコさんを殺めたのも前世である貴方だ」

「違いませんよね?」と訊ねると、美しい顔に似合わない舌打ちが聞こえ、ユラユラと揺れるように鬼面が姿を現した。