「天地さんは、貴方のこと……」
「知っているけど知りません」

豆鉄砲を食らったような顔になる。本当に意味不明だ。

「今世の彼は、僕が前世から続く因縁(いんねん)の相手とは知らないということです」
「因縁って……?」
「トーコを教祖にしたのは天地蒼穹です。但し、前世で、ですがね」
「はぁ?」

驚愕(きょうがく)するに値する事実だった。

「まさか……許嫁を奪ったのって、天地さん?」
「ええ、そうです」

今の……排他的にしか見えない彼が? そんな情熱的なことをやったの? 信じられない。

「なのに奴は地獄に落とされることもなく、今世も徳の高い人物として生まれた。そして、性懲(しょうこ)りも無くトーコと出会った――トーコとの(えにし)を断ち切ってやったというのに……」

「それってまさか……」頭を()ぎったのは恐ろしい情景だった。

「そうですよ。奴を殺したんです。神だと(あが)(たてまつ)られていた彼をね」
「神!」

あの天地さんが神だったというの? ナルシストで、守銭奴で、自己中心的で、外面はいいけど人タラシな彼が神? 「ないない!」と左右に大きく手を振る。

それに、神殺し自体無理でしょう――と全否定しながらゼロに目を()り、ちょっと首を傾げる。

――本当に無理だろうか?
女神のように美しく、氷の精よりも冷ややかな顔に見入る。
――無理じゃないかもしれない。
そんな馬鹿げた思いに一瞬(とら)われる。

「一人でさっきから何をしているのですか?」

どうやら一人百面相をしていたようだ。ゼロが怪訝な顔をしている。