「そうですか? その理由が陳腐と言うなら……トーコを教祖とした虚偽の静寂教団を乗っ取るため、ならどうでしょう?」

ん……? どういうこと?

「ストップ! 虚偽の静寂教団ってトーコという人が立ち上げたんですか?」
「創立者、という意味なら違います。彼女は〝選ばれし者〟です」
「それって、創立者がトーコという人を教祖にした、ということ?」
(おおむ)ねそういうことです」

そう答えながらゼロは左手に持った紫の薔薇を見つめた。つられて私もそれに目を向ける。すると彼の右手が唐突に薔薇の花を握り潰した。

「ちょっ……と……」止めなさい、と最後まで言えなかった。何故なら、彼の口元に身体の芯まで凍えそうな冷笑が浮かんでいたからだ。

――(あざけ)り? 怒り? 憎しみ?

様々な負の感情がそこに垣間見られた。

「だから僕は彼女を殺め教団を乗っ取ったのです、と言えば信じてもらえますか?」

愛する者の心変わりを恨み、彼女を奪った教団が憎かった。だから教団を簒奪(さんだつ)したということだろうか? それが本当なら同情の念を禁じ得ないが――。

「乗っ取って何がしたかったんですか?」

方向性が大いに間違っている。
そう思ったときだった。何処からか声が聞こえた。

〈――違う。彼の……ゼロの勝手な思い込みなの……〉

空耳? 一瞬、そう思った。だが、それは以前にも聞いた声だった。《ここにいてはダメ! 逃げて!》声は確かそう言った――ということは、声の主は味方?