「それって犯人が、心神喪失を装い、罪を逃れようとするときの台詞ですね」

そんな風に彼を否定しながらも、彼が嘘を吐いていないと分かるから厄介だ。

「詐欺的な行為ですが、そういうケースは多いですね。しかし、そうじゃない場合もある。本当に霊が関与している場合です。だが、人間とは勝手な生き物で、常識を(くつがえ)す存在を排除したがる傾向にある。君もそのことは良く知っているはずです」

「――でしょう?」と断定するかのような笑みを漏らす。

悔しいが彼の言うとおりだ。良く知っている。だからだ。常識を覆す存在だから浅井青年や壱吾君同様、私も周りに本当のことが言えず真実を隠すのだ。排除されないように……。

「――理由を聞いてもいいですか? どうして(あや)めなければならなかったのかを」

「いいですよ」とゼロは言い渋ることなく話し出した。

「前世でトーコは僕の許嫁でした。しかし、裏切ったんですよ。そして、今世でもまた僕を拒絶した」
「可愛さ余って憎さ百倍ということですか?」

私の問いに、ゼロは馬鹿にしたように嗤い始めた。

「そんな陳腐(ちんぷ)な理由ではありません。実験です」
「――もう一度言ってもらえますか?」

次々発せられる意味不明の言葉に、思考回路が正常に機能せず迷走する。

「転生神話の立証? それをしたかったのです」

要するに、『生まれ変わっても絶対に一緒になりましょう』バージョンの逆、『生まれ変わっても貴方とは絶対に一緒にならないわ』が本当なのか確かめたかったようだ。

「意味が分かりません。それこそ陳腐です。そんな理由でトーコという人を殺害したんですか? 信じられません」