「――どうして……死んだんだ……」

またカフェコーナーからだった。
声の主は若い男性のようだ。

大切な人……恋人でも亡くしたのだろうか?
嗚咽の合間に聞こえる呟きは、そんな風なことを言っている。

それにしても……何て悲痛な声。死神に魂の半分を持っていかれたみたいな、
そんな失意をはらんだ絶望の声だった。

どんな人なのだろう? その人とはどんな関係だったのだろう?
なぜか声の主がひどく気になった。

『クールなほど素っ気ない子』と言われている私なのに……見ず知らずの赤の他人に興味を持つとは、おまけに、耳をそば立て、推測までするとは、明日は嵐になるかもしれない。そう思いつつも盗み聞きが止められなかった。

「――さん、貴女は最後まで、(かたく)なに俺を受け入れてくれなかった……」

あれっ? 片想いだったの?
唐突に話の内容に展開が生まれた。

「どうして一人で死んだんだ……死んだ後でさえ……無視するように顔を見せてくれない」

ロミオとジュリエット? まさか悲恋の末に自殺とか? それで親が怒って看取らせなかったとか?

「今気付いた。何も知らない……貴女は何者だったんだ……」

えぇぇぇ! どういうこと? 想い人のことを何も知らないとは……いったいどんな付き合いをしていたの?

「くそっ!」

ダン、と大きな音がした。男性がテーブルを叩いたのだろう。
益々興味深く思ったが、「お待たせ」と祖母が戻ってきてしまった。

「どうしたの?」
「あっ、ううん、何でもない」

今の会話で盗み聞きしていたことが、きっと壁の向こうにいる男性にバレただろう。

「じっ爺様は?」
「もうエレベーターの前にいるわ」
「じゃあ、行こう!」

バツが悪く逃げ出すようにその場を離れた。


その男性のことは、その後のゴタゴタで忘れてしまっていたが、まさか、その人があの人だとは――夢にも思わなかった。