『――その瞳はトーコのものだ……トーコのものだ……』

頭の中でゼロの言葉がリフレインする。

「あっ貴方、いったい何を言っているの?」

ガタガタと身体が震える。

「分かっているくせに」

ゼロの顔に不快な嗤いが浮かぶ。

「君の脳裏を()ぎった思いは正解です。移植された角膜はトーコのものです」

そう言いながらゼロの視線が目の前の薔薇に向く。

「紫の薔薇。実に神秘的で高貴な色だと思いませんか?」

突然何の話だろうと思っていると、彼の手が、見事に花開いた一輪の薔薇に伸びた。

「あっ!」

鋭い棘が有るにもかかわらず、彼はそれを素手で手折(てお)った。
見る間に指先から鮮血が溢れ出す。

だが、脳細胞がいかれたのか、それを〝血だ〟と認識したのは、彼の白いパンツにポツンポツンと赤いシミを付けた後だった。

「知っていますか? 紫の薔薇の花言葉……」
「ちょっと何を呑気(のんき)なこと言ってるんですか!」

今の今まで彼の言動に恐怖していたのに、この出来事がそれをすっかり払拭(ふっしょく)してしまった。

「バイ菌が入ります。破傷風(はしょうふう)にでもなったらどうするんですか!」

過去、祖父の友人で、薔薇の栽培に従事していた人がそれで亡くなった。頑健(がんけん)な人だったので相当無念だったのだろう。

()り傷(ごと)きに命を奪われるとは!》と毎夜のように現われ――。

《土壌に破傷風菌などという伏兵(ふくへい)が隠れていようとは思わんかった。今後、(わし)のような者が現われぬよう、広く伝達して周知させて欲しい》と広報活動を願った。