「四年前から彼は私の(しもべ)です」

頭がクラクラする。

「顔が真っ青ですね。そこのベンチにお座りなさい」

言われなくてもそうするつもりだ。崩れるように腰を下ろすとゼロが隣に座った。

「離れて下さい!」

叫ぶように言いながらベンチの端っこに身を寄せると、ゼロが声高く嗤い始めた。

「気でも違ったんですか?」

その有様があまりにも狂気じみていたので思わず訊ねる。すると彼はいきなり真面目な顔になり、「嬉しいんですよ」と答えた。

「貴女と、またこの庭園を眺めることができて」
「また?」

意味が分からない、と彼の方を見ると、彼の視線が私の瞳を捉える。

「前世でも、今世でも、僕たちは共にこの庭を眺め未来を語り合いました」

だが……彼の瞳に私は映っているが、私を通り越して他の誰かを見つめているように思えた。

「貴方はいったい誰に話し掛けているんですか?」
「君だよ。星型の黒子を持つトーコ。君だよ」

ゼロの白くて長い指先が左の目尻に触れる。氷のように冷たい指だ。背筋に悪寒が走る。

「触らないで!」

その手を払い除けると、グッと後ろに身を引いた。

「何を勘違いしているのか知らないけど、私はミライ。トーコなんて人じゃない。それに、星型の黒子はあるけど、左じゃなく右の目尻」

一気に言って、彼に触られた所を掌で(こす)るように(ぬぐ)う。

「ああ、そうだよ。君はミライだ。でも、トーコでもある。全てを視透せるその瞳はトーコのものだ」