「怖くない、とは言えません。怖いです。でも、私って損な性分なのか、頼られたら断れないんです。この子――あれっ?」

足元にいると思っていた少年がいない。

「この子ですか?」

ゼロの背後からピョコンと少年が顔を出した。

「いつの間に……?」
「ご苦労様。戻っていいよ」

ゼロがそう言うと、少年は無邪気な笑みを浮かべて――消えた。

「ど……どういうことですか?」

状況が把握できない。

「貴女の損な性分を利用させて頂きました」
「それって……まさかあの子を利用したということ?」

慮外(りょがい)な事態に混乱する。

「じゃあ、あの子が現われた時から――私を(だま)していたの?」
「はい。私の思う方向に貴女を向けさせる必要があったので。あの子の魂を誘導させてもらいました」

ハンマーで思い切り頭を殴られたように感じた。

「それって――マインドコントロール? もしかしたら金之井さんも……」
「ええ、そういうことです」

今、ハッキリした。天地さんが金之井嬢を『悪霊体質』だと言ったとき、なぜ違和感があったのか。

「彼女は生者なので魂そのものをコントロールすることはできませんでしたが、僕を好きになった時点で感情はコントロールできました」

やっぱり。以前の彼女は、高飛車なお嬢様だったが気高い魂の持ち主だった。恋が彼女を狂わせたのだ。

「貴方は彼女を手玉に取ったんですね?」
「手玉……ですかぁ」

ゼロがククッと喉の奥で嗤う。

「何とも品の無い言葉ですね。でも、ある意味そうです」
「なんて人なの!」

怒りが湧き上がる。

「人の好意を何だと思っているの?」

そこでハッとする。

「まさか、青柳先生も……」