こういう場所は嫌いじゃない。

七夕の地を巡るよりも、こういった場所を散策する方が夢やロマンが有って楽しい。それなら私だってもっと積極的に仕事を手伝えるのだが――。

如何(いかん)せん、天地さんは七夕に取り憑かれた男だ。方向性の変更を示唆(しさ)したところで変えないだろう。

溜息と共にそんなことを思っていたら、「あれっ?」前方にいた人たちの姿がない。

「えっ、どこに行っちゃったの?」

――と、前方に目映(まばゆ)い光が見えた。恐る恐るその光に近付いて行く。

「ここって……天国?」

狭い通路を抜けると、そこは陽の光が燦々と照り付ける広々とした庭園だった。

青い空。整然と整えられた木々。色とりどりの花々にむせかえるほど甘い薔薇の香り――まるで異次元空間に飛ばされたみたいだ。

目の端に何かが映る。そちらに目を遣り、「あっ……」と小さな声を上げた。
当初思い描いていた建物がそこに有ったからだ。

「正真正銘、あれが虚偽の静寂教団の本部だ……」

古城のように威風堂々(いふうどうどう)と建つその姿に見入っていると、「再会を楽しみにしていました」と、背後から声がした。

「カンさん……じゃなくて、偽装零ことゼロさん。そして――」

振り向くと、相変わらずの眉目秀麗な顔が至近距離にあった。

「虚偽の静寂教団の教祖様と言われている人」

「正解」と言ってゼロが口角を上げる。

「ところで、貴女は怖がりだと聞いていましたが、僕が怖くないんですか?」

やはり作り物のような笑みだ。